2010年11月30日火曜日

東部コンベンションセンター整備事業




「千本松原」構想に合意
 東部コンベンション施設
 県と沼津市代表企業
 基本協定を締結
 JR沼津駅北側に整備する東部コンベンションセンター整備事業について、川勝平太県知事と栗原裕康沼津市長は29日県庁で会談し、同市の景勝地「千本松原」を施設全体のコンセプトに据えた上で、富士山の眺望を生かすよう配置を改めた新たな施設構想に合意。県と市、事業の優先交渉権者代表企業の大和ハウス工業は同日付で基本協定を締結した。
 県は会議場、市は展示イベント施設と駐車場、民間事業者はホテル(客室150室)を建設し、県東部のにぎわい創出の核施設を目指す。川勝知事は「県産材を多用し、個性が明確に見える施設になりそうだ」と期待感を述べた。海沿いに松が立ち並ぶ千本松原をイメージし、会議場1階のエントランスギャラリーなどに県産材を8~900本使用し、富士山を望む屋上庭園や壁面緑化を設置する。
 売却益の活用を想定していたマンション建設の取りやめなどの影響で、県、市、民間事業者の総事業費は当初提案の168億円から18億円減の150億円に減る。このうち民間事業者の負担分は54億円から30億円に減額となり、県はマンションの床面積に応じた土地分の収入がなくなるため支出が64億円が70億円程度に増えそうだという。市負担額は50億円のまま。
 市施設は2013年、県施設は14年のオープンを目指す。指定管理者制度を導入し、県外の同規模の施設との比較をもとにした試算では年間の運営コストは県施設が3億円、市施設が1億2千万円を見込む。


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整備「鉄道高架が前提」
 東部コンベンションセンター
 沼津市長 事業進展に期待
 県と沼津市、企業グループが29日、基本協定を締結した県東部コンベンションセンター。鉄道高架事業を含めた沼津駅周辺総合整備事業を構成する6事業の一つで、川勝平太知事との会談に臨んだ栗原裕康市長は「事業が進めば当然『高架をやらない手はない』という事になる」との見通しを示し、同センターの整備は鉄道高架が前提との認識を強調した。
 協定締結は、事業内容の見直しにより当初予定から1年遅れ。市が建設する展示イベント施設のオープンも1年遅れることになった。取り壊しのため3月末の閉館予定だったキラメッセぬまづは今年1月、急きょ1年延長の措置を取った。
 見直しは「千本松原」をコンセプトにホテル機能の強化やにぎわい空間創出、県産材の活用など、鉄道高架のメリットを生かし東部地域の拠点施設としての役割強化を求める県の意向を全面的に受け入れたため。市が受けた影響について、栗原市長は会談後「遅れはよりよい物をつくるためのコスト」と説明した。
 鉄道高架事業の事業費ベースの執行率は08年度末時点で1・8%。栗原市長は会談後の会見で同事業の現状を「全く停滞している」とした上で、「駅周辺は区画整理などで大きく変わりつつある。すべて、高架を前提に進められている」と重ねて述べた。
 駅周辺総合整備事業の残る4事業のうち市街地再開発事業はすでに事業費が全額執行され、ほかも9・9~53・6%となり、09年度決算をもとにした執行率は一部でさらに伸びる見通し。
(静新平成22年11月30日朝刊)

2010年10月29日金曜日

市川会頭ら正式決定



 市川会頭ら正式決定
 沼津商議所新執行部

 沼津商工会議所は29日、臨時議員総会を沼津市内で開き、筆頭副会頭の市川厚氏(76)=石川建材工業相談役=の会頭就任など正副会頭、専務琿事など新執行部の役員人事を正式決定した。市川氏の任期は11月1日から3年間。
 次期会頭に選出された市川氏は「副会頭はじめ皆さんとともに、沼津商議所と産業界がさらに発展していくよう尽力する」と抱負を述べた。
 1期3年が満了する後藤全弘会頭(ゴトー相談役)は11月から、諏訪部恭一沼津信用金庫会長とともに商議所相談役を務める。
 後藤会頭は「サブプライムローン問題、リーマン・ショックと続いた中で、地域の総合経済団体としての商講所の役割を問い続けた」と振り返り、「新会館の建設用地取得、東部コンベンションセンター事業などに取り組めたことを感謝する。船出する市川丸へも協力をいただきたい」とあいさつした。
(静新平成22年10月29日朝刊)

2010年10月21日木曜日

沼津商議所 新会頭市川篤氏


 沼津商議所 新会頭に市川氏

 副会頭は3氏新任
 今月末で任期満了を迎える沼津商工会議所の次期正副会頭人事が20日、内定した。後藤全弘会頭(78)=ゴトー相談役=は退任し、新会頭に市川厚副会頭(76)=石川建材工業相談役=を起用する。
 副会頭は3氏が新任。28日の臨時議員総会で正式決定する見通し。
 市川氏は沼津市出身。1990年から2006年までの同工業社長時代には建築資材の販売からビル内装工事へと方針転換する経営革新を進めた。04年から2期連続で副会頭、今期は筆頭副会頭を務める。
 後藤氏は07年に会頭に就任し、1期の間、新商議所会館の建設決定や、国の認定を受けた市中心市街地活性化基本計画案の審議、07年に発足した県東部地域コンベンションビューローの設立に尽力した。中心市街地活性化策に精通していることもあり続投を求める声もあったが、自身の年齢などに配慮して固辞したとみられる。
 市川氏の会頭就任に伴い宇野統彦副会頭(65)=桃中軒社長=が筆頭副会頭に昇格、副会頭には岩崎一雄氏(70)=イワサキ経営グループ代表取締役=、秋元一寿氏(63)=秋元水産代表取締役=、山中利之氏(63)=山中兵右衛門商店代表取締役=の3氏が新たに就く。現副会頭の石橋昭彦副会頭(72)=イシバシプラザ社長=は退任する。
(静新平成22年10月21日朝刊)


 新会頭に市川厚氏を承認
 商議所定例常任委で次期役員
 沼津商工会議所は二十日、定例常議員会を開き、後藤全弘会頭が一期三年の任期満了とともに退任し、市川厚副会頭(76)の新会頭就任を承認した。二十八日開催の議員総会に諮る。
 常議員会で後藤会頭は「思い残すことなく退任させていただくことになった。商工会議所のあるべき姿を模索しながら、いろいろな事業をさせてもらったが、大過なく会頭職をまっとうできたのは皆さんのおかげ」とあいさつした。
 市川副会頭は、昭和二十七年に沼商卒。長崎屋勤務を経て三十一年、石川木材工業(現石川建材工業)入社。四十八年、同社取締役、平成二年に社長、十八年から相談役。
 商議所では十一年から十六年まで建設業部会長、十六年に副会頭、十九年から筆頭副会頭。
 副会頭は、宇野統彦桃中軒社長の留任のほか、岩崎一雄イワサキ代表、秋元一壽秋元水産社長、山中利之山中兵衛門商店社長の新任を承認した。
(沼朝平成22年10月21日号)

2010年9月2日木曜日

沼津市事業仕分け(沼朝記事)

 「不要」の判決も6件
 事業仕分けで「要改善」も35件
 市の二十二年度予算にかかわる事業仕分けが二十八、二十九の両日、市民文化センターで二会場に分かれて行われ、仕分け対象四十四事業のうち市民判定人によって「市(要改善)」が三十五、「不要」が六、「市(現状)」が二、「民間」が一となった。二十八日は二十四事業のうち「ぬまづ産業振興プラザ運営事業(二、六六四万円)」「自動交付機運用経費(三、〇六四万円)」「少年の船事業(一、三九〇万円)」の三事業が「不要」と判断された。会場では市民のほか市幹部、市議も傍聴し、仕分け人と市担当職員の質疑応答などに耳を傾けた。判定区分は「不要」「民間で実施」「国・県・広域で実施」「市が実施するが要改善」「市が現状どおり実施」の五つで仕分け人の評価と市民判定人の仕分け結果は別表(第一会場の仕分け人は一人欠席したため四人。判定が二対二に分かれた場合はコーディネーターが参加。市民判定人は三十九人のうち八人が欠席し総数は三十一)を参照。会場ごとの二日間の様子を順次掲載する。
 文化、広報、産業など取り上げ
 初日の第一会場
 28日【第一会場(大会議室)】▽市民文化センター自主文化事業(予算額二、五八〇万円)=仕分人からは「市なのか、指定管理者である市振興公社の事業なのかが分からない。沼津市の形態は特異」「市教委の自主事業と指定管理者の自主事業を分ける意味は何か」のほか、想定した入場者数の不足分を税金で補填することに疑問の声が示された。
 宮下義雄文化振興課長は、歌舞伎やクラシックコンサートなど地方では見ることが難しい興業を沼津市で打つことの意味を強調したが、仕分け人は観客数の少ない点を突き、「(税金を使って)自分達が見たいものを呼んでいるだけではないのか」と厳しく指摘。
 仕分け人は「市の自主事業は整理してもらい、市としてやらなければならないものを明確にする必要がある」と講評。
 ▽明治史料館管理運営費(三、〇六七・六万円)▽歴史民俗資料館管理運営費(一、二六六万円)▽戸田造船郷土資料博物館管理運営費(一、二二八万円)=仕分け人からは「三館の入場者数の経年変化」「学芸員の人事異動」「学芸員の民間研究者との連携」などの質問があった。
 仕分け人の講評は「明治史料館と歴史民俗資料館は、収集、展示、研究を確立するためにも統一すべき」「戸田は残すべきで、展示に特化すべき」「運営・人件費などコストを下げるべき」「学芸員が一人ずつでは気の毒、どこかに統合すべき」「三館が分散しているのは非効率」などが挙がった。
 市民判定人も「明治史料館と歴史民俗資料館は統合すべき」「人員削減をすべき」「戸田造船郷土資料博物館は貴重なものなので集客に努力して」などの意見が多かった。
 ▽ナティ駐車場管理運営事務経費(三、七九三・七万円)=「(地下)駐車場はナティ再開発組合から市が買ったのか。普通は組合が利用者サービス施設として運営するはずだが」の指摘。川口安和市街地整備課長は「上土町付近の駐車場不足のため公共施設として市が約十一億六千万円で買った。そのうち約八億三千万円が借り入れ」と答弁。
「相当コストがかかっている。返済計画はどうなっているのか」の質問に川口課長は、「二十三年度で返済は終了し、年約七千六百万円の公債費を支出している」と答えた。
 「大雑把に言うと決算では毎年一千万円程の利益を上げているように見えるが、毎年約七千万円返済があるということは六千万円程の市税を使っていると考えていいか」については「はい」。
 仕分け人は「どこまで管理運営コストを下げられるか。今後の(タワーリフト等)大規模修繕などでのコストリスクを避けるためにも、将来的には処分することも考えるべき。組合事業安定化のために市が買ったと思うが、返済が終わるに当たり売ってしまうと購入費の約十一億六千万円が市民の負担になるので、コストを下げ、続けて運営し、最大限の利益を上げるよう努力してほしい」。
 市民判定人からは「駐車場料金が高いので周辺と同額にしてほしい」という意見があった。
 ▽広報事業費・広報ぬまづ発行事業(四、〇三〇万円)▽広報事業経費・インターネットホームページほか(二、四六九・七万円)▽広報事業経費・広報政策推進事業(一、二〇〇万円)=「税収が減っている中、広報ぬまづ、市民カレンダーとも上質の紙を使っていて贅沢。広報事業費も聖域ではない」「コーストFMの一千万円は市民に説明できないのではないか。効果測定はどうか、厳しい税収の中でやっているのだから効果を気に掛けなければならない」
 仕分け人の講評は「発行が月二回必要か。一回で十分。他府県では月一回に戻っている所が多い」「編集期間が一カ月掛かるものを月二回は不要」「コーストFMなど効果を再検討すべき」
 ▽企業立地促進事業(一〇、六六〇万円)=仕分け人が「市からのセールスが大事。市税(固定資産税、法人税)は企業誘致によって、どれくらい増えたか」としたのに対し間宮一壽産業振興課長は、「流動的で分からない」。
 仕分け人は「それでは何のために企業誘致するのか」とし、間宮課長は、誘致した企業の建物建設などによって多くの投資額が沼津に落ちる、と投資総額を示したが、仕分け人は「東京の業者が建設したのでは何にもならない。税収がどれくらいになったかが問題」だと指摘。
 誘致件数は二十年度が六件(市外からの移転はゼロ)、二十一年度は九件(同一件)という現状を基に仕分け人の講評は「周辺よりも土地価格が高い中、競争するんならやめた方がいい。(優遇措置で企業誘致することが)本当に必要な投資なのか、市民にどのような影響があるのか考えるべき」だと指摘。
 一方、市民判定人からは「沼津の若者に雇用を提供する意昧で重要な事業」との意見。
 ▽商業まちづくり推進事業(二、九〇〇万円)=仕分け人は「中心市街地の核は何か。よさこい東海道も開催日は『ハレの場』になるが、その時だけ。コンスタントに人が集まらなければ意味がない。スポットで集まっても街のにぎわいにはならない」と指摘。これに対し間宮課長は「沼津へ行けば何かイベントがある、と期待感を持たせることが大事」と回答。
 仕分け人は「何を目指して、これらの事業(まちの情報館運営、よさこい東海道、中心市街地活性化出店促進、同推進事業など)をやっているのか、ゴールはどこか」と質問。
 間宮課長は「より高いサービスを提供する。(高次都市)機能が集まると人が集まる」と答えた。
 しかし「市が六百五十万円(総事業費約二千万円)をかけて、よさこいを支援するのは珍しい。市がやるものと民間がやるものがファジー(あいまい)。行政が民に立ち入りすぎではないか」と指摘。
 仕分け人の講評は「イベントの立ち上げを市が支援する三年間はいいが、それ以上やっても自立できない。補助金がなければやっていけないものは、やめるべき。ゼロから再考すべき」。
 ▽ぬまづ産業振興プラザ運営事業(二、六六四万円)=「沼津地域産業振興協議会(振興プラザ)と商工会議所との違いは何か。独自に作らなければならない意味は何か。経営支援や創業支援、人材育成は商工会議所がやるべきことではないか」「補助金をもらって(同プラザが)経営アドバイスなどをやっているが、商工会議所の存在が危うくなっている。行政が、商工会議所がやっているようなことをやることは民業圧迫。そのことが商工会議所の会員減少の原因にもなっている」との指摘。
 仕分け人の講評は「必要であるなら(補助金を一受けずに)独自にやってほしい。沼津市でやることではないだろう。商工会議所との関連を考えなければならない」「商工会議所と(業務内容が)重複しているのなら不要」
 ▽図書館資料整備事業(四、七〇〇万円)=「建物面積が公立図書館平均の三倍程、その割には蔵書が少ない。全てが開架だと貴重な本が傷む」との指摘に対して保田藤代市立図書館事務長は、「閉架書庫は必要だが、現在の予算では難しい」と回答。
 仕分け人は「どのような本を置くかは図書館にとって重要。購入図書選定の職員は二、三人なのに、移動自動車図書館一台に二人携わっているのは疑問。コスト面を考えてほしい」。
 ▽図書館情報ネットワーク事業(一、五〇〇万円)=仕分け人の講評は「情報ネットワークのリース料は、べらぼうに高い。三分の一で済むのではないか、見直しが必要」「学校図書館、地区センター図書館と本館(市立図書館)との関係を検討すべき」「無料でサービスを提供する人は、ひたすら要望に応えようとする。目先のニーズに応えるのが図書館の仕事ではない。サービスは無限大に大きい方がいい。だがコストを考えなければならない」とした。
(沼朝平成22年8月31日号)

 補助金に厳しい指摘も
 事業仕分け初日第二会場
 28日【第二会場(第一練習室)】▽多様な保育サービス事業〔民間保育所〕(予算額二七、八〇〇万円)=民間保育施設の延長保育や特別障害児保育に対して補助を行う事業。子育て支援課が担当。
 仕分け人は、市内の待機児童の人数を尋ね、市は七十人余りの待機児童がいることを回答。市側提出資料によると、一部保育サービスで、同じ保育内容なのに公立施設での費用よりも民間施設への補助額の方が多くなっており、仕分け人は「補助のあり方を考えるべきではないか」と指摘。
 仕分け人の評価と市民判定人の評価結果は別表の通り(以下、各事業の評価結果は別表参照)だが、現状維持を選んだ市民判定人からは「むしろ、この事業は拡充すべき」という意見もあった。
 ▽多様な保育サービス事業〔公立保育所〕(一、五四〇・七万円)=市が運営する施設八件のうち五件で実施されている延長保育や障害児保育を行うために保育士を増員する事業。子育て支援課。
 市が保育施設を運営することの是非が論点となった。公立施設と民間施設との間でサービスの格差はあるか、との質問に対し、市担当者は、格差はない、と回答。これに対して仕分け人からは、「サービスが同じなら人件費などのコストが安くなる民営にすべき」「これからは官民の施設で役割分担をしていくべきではないか」との声が上がった。市側は「(今すぐにではないが)大前提として『民間へ』という流れはある」とした上で、藤井原保育所が耐震化の建て替えをきっかけとして民営に移行することを説明。
 ▽放課後児童クラブ運営事業(九、七五〇万円)=昼間、保護者が家庭にいない児童を放課後、学校内で預かる「放課後児童クラブ」を運営する事業。子育て支援課。
 仕分け人は「地域住民などのボランティアを活用して人件費を抑制すべき」「児童を預ける保護者の負担金額は適正か」「クラブを運営する指導員の質的向上は図られているのか」などと質問。質的向上の問題について市側は「年間に十回程度の研修を事業費内で行っている」と回答した。
 ▽自動交付機運用経費(三、〇六四万円)=市内四カ所に設置された機械で住民票の写しと印鑑登録証明書を発行する事業。担当部署は市民課。
 仕分け人は最初に、交付機四台の利用状況を質問。市役所内と沼津信用金庫高島町支店内に設置された交付機に比べ、市立図書館内とイーラde内に設置された交付機の利用が少ない状況にあり、理由は、イーラdeや図書館には無料駐車場がないことが挙げられた(図書館は三十分まで無料)。傍聴席の市民からは「そもそもイーラdeには行かないから」との声も。
 また仕分け人は、「交付機設置が市職員の人件費節減にどれほど役立ったか」と質問。「市役所内の交付機設置に伴い委託職員一人を削減し、約百三十五万円の節減になった」との説明に、仕分け人は、人件費の削減額よりも交付機設置に関する費用の方が多いことを指摘。
 他に、交付機が書類一通を発行するコストが二千九十二円になっており、交付機設置が市民課全体のコスト改善に役立っていない点が追及された。
 これに対して夜間や閉庁時でも書類を発行できる利便性が主張されたが、仕分け人は、郵送などの手段を使うことで必ずしも窓口を訪れなくても書類を入手できることを確かめてから、「『今夜中にどうしでも書類が必要だ』という人が市内にどれだけいるか」として、依然として効率性の面で問題がある、とした。
 ▽松の材線虫防除事業(一、八七〇万円)=千本保安林などでの松枯れ被害を防ぐため、薬剤を散布し原因となる虫を駆除する。担当は農林農地課。
 議論の中心になったのは、散布作業を委託する業者との業務委託契約について。仕分け人からは「契約の方法を工夫することでコスト削減ができるのでは」とされた。
 この事業に対して市民判定人からは「改善すべきとは思うが、松を守る事業そのものは、沼津にとって重要」との意見があった。
 ▽松林保護育成事業(一、六七〇・一万円)=御用邸記念公園などの市内公園の松を害虫から保護するために薬剤を散布したり、被害の出た木を伐採したりする事業。緑地公園課が担当。
 この事業については、前掲の松の材線虫防除事業と合同で討議された。
 ▽公園維持事業(四、八七五・九万円)=市が管理している公園などの施設の補修や樹木の枝切り(せん定)などを行う事業。緑地公園課。
 この事業では、委託業者だけではなく、市の正規職員も樹木せん定作業の一部を行っていることが仕分け人から問題視されたのに対して、市職員が行う方が委託するよりもコストが安くなるとの説明があり、仕分け人は「本来、公務員が行う方がコストが高くなる」とした上で、委託料を払い過ぎなのではないかと指摘した。
 また、「地域住民などのボランティアを活用すれば、コスト削減だけでなく、住民が公園に愛着を持つようになる」との提案に対して市側は、既に公園愛護会などの組織の協力を得ていることを説明。今後も住民との協刀を進めていきたい、とした。
 ▽ゆめとびら舟山運営管理費(一、七四一・九万円)=戸田地区にある社会教育施設「ゆめとびら舟山」の運営事業。同施設はグラウンドと宿泊施設で構成される。担当は市教委生涯教育課。
 同施設の稼働率の低さと稼働率向上の対策がなされているかが論点。
 市からは、施設利用者には市外からのリピーターが多いことが優れた点として挙げられたが、仕分け人は「市外の人のために市民の税金を使い、市民の納得を得られるのか」と指摘。「市内の学校単位での利用が進むように取り組んではどうか」と提案した。
 これを受けて市側は、「静かな環境という立地を生かし、ブラスバンド部の練習場所など、文化的活動にも利用してもらうことを考えている」と回答。
 ▽少年の船事業(一、三九〇万円)=中学生が船で北海道へ行き、現地や洋上などでの集団生活を通して仲間作りや体験学習を行う事業。三市三町の合同開催。二十一年度の参加者は二百一人(うち沼津市からは百二十四人)。生涯教育課。
 この事業では、参加者一人当たり約十八万円の費用がかかることが問題とされた。参加費は四万五千円で、市の負担は十三万円を超える。
 仕分け人からは「教育的内容は非常に素晴らしいと思うが、約二百人という一握りの中学生のために、どうして市民がこれほどの負担をしなければならないのか。参加しない中学生は何千人もいる。不公平では」と問題視。また「なぜ、行き先が北海道なのか」と質問。
 「北海道を知る、ということは、他地域を知ることにつながる」との回答に対して仕分け人は、「参加者達の北海道での体験が、その後にどうつながっていると思うか」と質問。
 担当者は「NLCという子ども達のリーダー組織があり、参加者にNLC加入を勧めているが、加入するのは数年に一人いるかいないか」との回答の一方で、参加者を対象のアンケートで「大変良かった」「良かった」という意見が九九%を占めていたことを挙げた。
 しかし、仕分け人は「本来十八万円かかる旅行を格安で行けるのだから喜ぶのは当たり前」と指摘。「もし全額目己負担だとしたら、どれだけの人が行きたいと思うか」と再質問。これに対し市担当者が「誰も行かないと思う」と答えると、市民判定人からは失笑が。
 仕分け人からは、「これでは普通の旅行と変わらない。旅行することが目的になってしまっている」「四万五千円という高額な参加費を考えると、低所得世帯に対する社会福祉的な意義も見出せない」という意見があり、「同じ費用をかけるなら、もっと大勢の子ども達を戸田の『ゆめとびら舟山』へ連れて行ってはどうか」という提案がなされた。
 判定後、孫が「少年の船」に参加したという市民判定人の男性が発言を求め、「六泊七日という日数を減らして参加費も安くすべき。そうすれば、多くの人が参加できたはず」という孫から聞いた感想を披露した。
 ▽子ども医療費助成事業(二、六〇〇万円)=小学一年生から高校三年生に相当する子どもが入院した際、保険診療による医療費自己負担分と食事療養費を償還払いで全額助成する事業。担当部署は健康づくり課。
 医療費補助により続発が予想される「コンビニ受診」が最大のテーマとなった。「コンビニ受診」とは、緊急性のない患者が、気軽に夜間救急外来などを利用すること。必要な人が必要な医療を受ける機会が失われるだけでなく、医療費の増大ももたらす。
 市側は、補助の対象を入院に限定することで、コンビニ受診にはつながらないことを利点の一つと説明したが、一方で、提出された資料には、今後は通院費の補助も行う予定でいることが記載されており、仕分け人からは、「『コンビニ受診にはつながらない』という説明はいったい何か」と強い疑問が示された。
 また、市が「医療費助成に地域差があってはならない」として、国や県の支援を見込んで通院費補助を計画していることに対し、仕分け人は「国の負担は回りまわって沼津の人々の負担にもなる」とした。
 また、周辺市町よりも手厚い補助を目指すことに対して、「これではバラマキの人気競争」「子育て支援を手厚くするということは、裏を返せば、子どもがいない世帯に負担を強いるということ」という意見が相次ぎ、コンビニ受診を抑制するため、時間外診療については補助を行なわないとする浜松市の事例が紹介された。
 判定後、市民判定人の女性が発言を求めた。病気がちな子どもがいるという女性は、「通院費補助を実施している長泉町などの病院に行った際、『医療費補助の受給者証を出してください』と言われると、沼津市民であることが辛く感じられる。(子育て世代は)医療費を節約できれば、その分を教育費などに回せる」と話した。
 ▽結核予防事業(一、四三九・四円)=結核レントゲン巡回検診を行う事業。健康づくり課。
 事業目的の妥当性を中心に、仕分け人は同事業を紹介する市ホームページに「なるべく肺がん検診を優先して受けましょう」と記載されていることに着目。結核の流行を防ぐためには全員が検診を受けなければ意味がないのに、全員の検診を目指さない市の方針は目的と合っていない、と指摘。
 これに対し市側は、日本人の死因の中で肺がんが占める割合が多いことから、その検診の重要性と、肺がん検診と結核検診の単価の違いを説明した(肺がん検診は結核検診も兼ねている)。
 この事業を行う理由として、周辺市町でも同じことをしている点が市側から説明されたが、仕分け人からは「他もやっているから、というのは積極的な理由にならない」という意見が出た。
 また、検診を巡回方式でやっていることも論点となり、病院で受けてもらう流れにすればコストも下げられる、との指摘に市側が「巡回の要望は多い」と回答すると、「無料で巡回に来てくれるというなら、誰でも要望するのでは」とした上、「結核検診を無料でやるのは、制度が始まった当初は意味があったのだろうが、今となってはどうなのか」との見方が示された。
(沼朝平成22年9月1日号)

 2事業に「不要」の判断
 事業仕分け二日目第一会場
 事業仕分け二日目の八月二十九日。市民文化センターの第一会場では仕分け対象十事業を審査。市民判定人は「シルバー人材センター育成事業」と「はり・灸・マッサージ治療費助成事業」の二事業を「不要」と判断した。第一会場の仕分け人は五人、市民判定人は二十八人。
 29日【第一会場(大会議室)】
 ▽観光行政推進経常経費・観光案内(二十二年度当初予算額一、一三七万円)▽観光行政推進経常経費・観光パンフレット等(一、一三五・三万円)=「沼津観光協会に運営費として四百五万円補助しているが、根拠は何か。その額はどのように決めているのか。四百万円くらいにしとくか、ということか」との仕分け人の質問に対し杉山正人観光交流課長は「そうです」として例年の額を基に決めていることを示した。
 「三の浦案内所は一年中営業しているが、二十年度の利用者は八百八十人で一日平均二・四人。これを続けていくのか」に杉山課長は、「沼津の特徴である『海』を生かすためにも、沼津駅を経由せずに車で三浦地区に直接入る観光客にとって必要な施設」と存続を主張した。
 これに対し仕分け人が「入り込み数」を尋ねたのに対して杉山課長は「データはない。分析はしていない」と回答。仕分け人は、入り込み数が分からなければ案内所の利用率、効果が分からないことを指摘。
 また、沼津港の観光客が増加傾向にあるとされたことについて、「何をやったから増えたのか」との質問に杉山課長は「分析はしていない」。
 さらに仕分け人は傍聴席に向かい、旅先で観光案内所を利用したことがあるか挙手を求めた。四分の一程が挙手した結果について杉山課長に感想を求めたが、同課長は何人挙手したか逆質問。「そういう精神構造だから困る」と仕分け人の不評を買った。
 仕分け人は「どれくらいの人が案内所を利用しているのか、どれくらいのニーズがあるのか調査、把握しないで、『市のためになるから』だけで(税金を使うこと)は市民に対して説明できない」と指摘。
 三浦地区在住の市民判定人は「(地元に住んでいても)三の浦観光案内所を利用する人がいること自体信じられない」と利用者数に疑問を投げ掛けた。
 ▽イベント展開事業(七、五〇〇万円)=対象事業は、沼津夏まつり、サンセットページェント、ジャパンアートフェスティバル、ぬまづサマーガーデン、ウィンターステージ、戸田港まつり、戸田温泉スプリングフェスタ、菜の花まつり、港・湧水・せせらぎウォーク、菊華展。
 まず、仕分け人は「(夏まつりの一週間後に開かれる、ぬまづサマーガーデンについて)数千人単位のイベントに税金六百万円(事業費六百五十万円)を掛ける意味は何か。つま恋(コンサート)のように全国規模で人を呼べるなら別だが」と疑問を提示。
 「民間からの協賛金が漸減している中、これからどうするのか。市民と市民以外のイベントへの参加者の比率は」の質問に、杉山課長が「把握していない」と答えると、「観光政策(の目的)とは違うイベントもある」と指摘した。
 仕分け人は「地域のイベントなのか、観光客を呼び込むためのものなのか市民サイドで考えるべきだ」「地元の人間が(にぎわいづくりに)努力しなければならない。何千万円もかけて何回も花火をやることはないのでは」と講評した。
 ▽言語教育推進事業(一二、七〇〇万円)=事業費はALT、(外国語指導助手)委託料に約一〇、三〇〇万円、在住ALT三人の報酬約一、四七〇万円、英語副読本印刷費約三六〇万円、四十一小中学校に読解力向上交付金三六九万円(一校九万円)など。ALT派遣料に疑問を示す仕分け人は「ALTの時間単価はいくらか」と質問したが、市教委学校教育課の担当職員は「手元にデータがなく分からない」と回答。
 また、日本語文章の読解力向上推進のために交付される一校当たり九万円について仕分け人は、「なぜ国語の先生が教えずに外部講師を招くのか」とし、担当職員は「アナウンサーや童話作家らに感情表現を指導していただいている」と答えた。
 仕分け人が「読解力向上の効果が分からない」と説明を求めたが、担当者は答えに窮した。市民判定人の一人は「子どもが新聞を読むようになったり、読書の時間が増え、図書館を利用するようになったりすることで効果を見ることができるのではないか」と指摘。
 ▽私立幼稚園運営費補助事業(三、〇一四万円)=私立幼稚園(二十三園、教職員二九七人、園児三、五四三人)に対し、一園当たり五二万円、教職員一人当たり六万円を補助。
 仕分け人は「一律で補助することが適当なのか、見直しの検討をすべきではないか。政策的に絞って改善するのがいい」「幼稚園の経営努力で何とかなる補助額で、恒常的に補助しているのは変えるべきだ」と講評。
 ▽水産業振興推進事業(一、八九〇万円)=水産物流通促進事業は、沼津市での水揚げ量確保と流通促進を図るため、市内の漁港に水揚げする市内漁協加入者の水揚げ額の○・五%を補助するほか、水産加工品(沼津ひもの)普及宣伝事業、魚食普及促進事業(料理教室)を補助するもの。
 仕分け人が「水揚げ量増加によるメリットは何か」としたのに対し、下山英治水産海浜課長は「水揚げが増えれば市民に新鮮な魚を提供できる。また水産加工業や運送業などに経済波及効果がある」と答えた。
 これには「沼津ひものブランドはポピュラーなのに、なぜ補助するのか。これから売り出そうとする加工品などの宣伝費を補助するなら理解できるが」と疑問を提示。
 仕分け人は「水産加工品普及宣伝事業と魚食普及促進事業の補助はいかがなものか。独自でやってもらえないか」とする一方で、「水産物流通促進事業は後継者問題もあり、場合によっては拡充(率を上げるなど)が必要かも」と講評。
 ▽緊急通報システム設置事業(一、六〇三万円)=六十五歳以上の独り暮らしの高齢者と高齢者のみの世帯で、心臓疾患や脳血管疾患などによって緊急時の通報が困難な人に安心して暮らしてもらえるよう同システムを無償貸与(二十一年度六百七十三件)するもの。
 「無償貸与でいいのか」の問いに石川正雄長寿介護課長は、「命にかかわるということで無償でやってきたが、負担を求める検討も必要かな、と考える」と答えた。
 仕分け人は講評で「一台のリース料が五年で十五万円は高い。自分が負担するとしたら、いくらなら支払えるか。これから高齢化が進めば利用台数は増えるが、その数すら把握していなくていいのか」と問題を指摘。市民判定人からは「民間がやって市が補助すればいい」との意見も。
 ▽シルバー人材センター育成事業(一、三五〇万円)=「補助金(運営費)を出す代わりに市が事業(仕事)を出すことはできないか。公共がセンターに委託する事業はどれくらいか」の質問に石川課長は「(シルバーの収入)約五億円のうち公共は一九・八%」と回答。
 仕分け人は「補助金を前提に活動するくらいならやめた方がいいが、ニッチ(市場のすきま)な部分を拾っているところはある。当面存続。行政が、高齢者がどのような労働を希望しているかをつかんでいない」と講評。
 ▽はり・灸・マッサージ治療費助成事業(一、三〇〇万円)=満六十歳以上が対象で、由請によって一人に年間六枚(一枚千円)の助成券を交付。施術費の支払いで一回につき一枚利用できる。
 「対象者が六十歳以上になっているが、なぜか(浜松市七十歳以上、静岡市七十五歳以上)」の質問に石川課長は「この事業を始めた時から六十歳以上でやってきた」と答えた。
 仕分け人は「(補助制度は財政的に)余裕ある自治体で見られるが、廃止の方向にある。これからの人達が負担しなければならないので、今までやってきたことであっても見直さなければならない」と講評。
 ▽老人クラブ育成事業(一、一〇四・八万円)=「老人クラブ連合会へ二十一年度、補助金二六三万円出している根拠は何か」の質問で石川課長は「予算内で今までのものを基に算出している」と回答。
 これに対しては「加入率一二・一%の団体に補助を出すのはどうか。元気な年寄りの中にはNPOを作って活動しているグループもあるが、そこに補助はない。一律に出すのではなく、団体補助から活動補助に移行した方がいい」と指摘。
 仕分け人は講評で「高齢化が進みクラブの必要性は高まっていると言いながら、会員数が減り組織率も一二・一%と低い、その原因は何か」「補助の理由が分からないし、補助がクラブ単位と連合に二重に出しているのが理解できない」と補助の見直しを示唆。
 第一会場では二日間で二十三事業を判定したが、終了偉コーディネー夕ーが市民判定人に意見や感想を求めたのに対して、「イベントについては経済波及効果を考えなければならない」「行政システム、図書館情報ネットワーク、緊急通報システムなどは民間に比べて費用が高いのではないか」「補助金一覧表を作ってくれると判定しやすい」などがあった。
 また仕分け人は、「一般企業も官庁もコストに厳しくなっている。市民の参加は行政への関心が高まる」「今まで(各地で実施している)仕分け事業に参加した中で、(沼津市の)市民判定人から最も多くの意見があった。払った税金が、皆さんが考えているものに使われているのか、市民が関心を持つことが大事」「市民判定人の関心が高いことが分かった。これから沼津市はもっともっとおもしろいまちになるのでは」「実情を知りながら、職員の気持ちも分かりながら質問させてもらった。国、県の縛りがあって市町村は自分の判断だけでできないものがあるが、選択できるようにすることが大切。行政、市民、議会が話し合って、いいまちにしてほしい」「測定なければ改善はない」と調査・検証の重要性を指摘した。
(沼朝平成22年9月2日号)
 事業仕分け二日目第二会場
 29日【第二会場(第一練習室)】▽生活バス路線運行事業(六、三〇〇万円)=三津、西浦、戸田などの市内過疎地域で住民に必要な公共交通機関を確保するため、同地域のバス路線の赤字分をバス会社に対して補助する事業。担当部署は交通対策課。
 バスの赤字路線の欠損を補助することの是非が主要議題となった。
 仕分け人は、バスがどれだけ赤字を出しても、補助を受けられることで、バス会社から経営努力が失われることを危惧。
 市側は、本来ならばバス会社が撤退してしまうところを引き止めている現状を説明し、バス会社に市から経営努力を強く求めるのは難しい、との考え方を示した。
 続いて仕分け人は、住民の「足」を確保しつつ経費節減を図る考えを持っているか、提案も兼ねてただした。
 その中で、バスの車種変更や予約システム導入によるコスト削減について考えたことはあるか、との問いに対して市担当者は「検討している」と答え、バス路線維持を断念して住民にタクシーチケットを支給するなどの抜本的改善案はあるか、との質問には「今後、検討したい」と応じた。
 このほか、バス路線の需要に対する本格的な調査が行われていない点が問題となった。
 ▽公共交通活性化事業(五、三〇〇万円)=市民の交通利便性向上と、交通安全推進のために、バスなど公共交通機関へ補助金を交付する事業。担当は交通対策課。
 この事業では、交通安全のためにバス会社に補助金を出すことの適切性が問われた。
 市側は、補助によって低運賃のバスが走ることでバス利用者が増え、それに伴い自家用車の利用が減って市内の交通量が減少し、そのことが交通事故減少につながる、と説明。交通事故発生件数が実際に減少傾向にあることを示して交通安全対策事業としての正当性を訴えた。
 しかし仕分け人は、「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉の上を行く論法、だと指摘。「バスが走ると事故が減る、という現象を証明できる調査もせずに、どうして断言できるのか。事故が減ったのは他の要因が大きいのでは」とし、同事業については、「交通安全対策としてではなく、住民サービスとして行うべき」だとした。
 また、実際にバスに乗ってみたという仕分け人は、「助成バスと同じ路線に普通運賃のバスが走っている」ことを指摘し、効率性に問題があることを指摘した。
 市側は、市内循環バスなどは、交通安全対策以外にも(環境対策や高齢者対策など)いろいろな計画の中に位置付けられている、として同事業の重要性を主張し続けたが、一方で「(事業について)検証していきたい」と柔軟なところも見せた。
 ▽交通安全対策推進事業(三、五二五・八万円)=交通安全の啓発活動と、駅周辺の放置自転車撤去及び駐輪場運営を行う事業。担当は交通対策課。
 この事業に含まれる交通安全啓発活動と放置自転車対策は、内容がかけ離れているので、別々に討議されることになった。
 そのうち交通安全啓発活動では、市の正規職員が啓発活動の現場に赴くことが人件費の面で非効率的であるとの指摘が出た。また、啓発活動を行った地域と行っていない地域とで交通事故発生率にどのような違いがあったかについて検証すべきではないかとの意見も出た。
 放置自転車対策では、受益者負担と原因者負担の面から論じられた。
 「市の負担を軽くするために、無料駐輪場を有料化することを考えているか」という質問に対して市側は、施設の種類に応じて有料化するなどの受益者負担のあり方を考えていきたい、と回答した。
 また仕分け人からは、撤去された放置自転車を引き取りに来た人に請求する手数料を上げるべきだとの意見が出た(現在の手数料は千円)。
 ▽交通安全施設整備事業(四、○○○万円)=交通事故防止のため、学校や自治会などからの要望に応じてカーブミラーなどの施設の整備や補修を行う事業。交通対策課が担当。
 要望に応じて設置を行うという方針の是非が議論の中心となった。
 市民の生命を守るためには、住民からの要望に従うという受け身的なやり方ではなく、市が統一的な交通安全計画を整え、必要な場所に必要な物を設置するような積極的な仕組みにした方がよいのでは、という仕分け人の指摘に対し、市側は「地域の交通安全については、状況を熟知している住民の意見が重要」と回答。
 また仕分け人は、「市内で最終的に必要になるカーブミラー数について考えたことはあるか」と質問。これについて市側が「数について目標は無いが、カーブミラーは交差点などで、もっと増やすべきだと思う」と答えると、仕分け人は「それではカーブミラーが永遠に増え続けるのではないか。無計画な設置は非効率」と指摘。
 ▽交通安全施設等整備事業(三、○○○万円)=交通安全のために歩道やガードレールなどの整備を行う事業。担当は維持管理課。ガードレール設置には警察との折衝が必要で、カーブミラー設置とは異なる課で担当している。
 仕分け人からは、総事業費のうち、職員の人件費がかなりの割合になっていることが問題視された。
 これに対し市側からは、工事の設計は市職員の技師によって行われていることや、設計を外注するよりも市職員が行った方がコストは安いことなどが説明された。
 仕分け人からは、カーブミラーと同様、市で総合計画を策定する必要があるのではないか、との指摘があった。
 ▽公営住宅整備推進事業(五億円)=数十年前に建設され老朽化した市営住宅を建て替えるなどして整備する事業。自由が丘団地の整備では、建設や管理を民間に委託するPFI手法が取られている。担当は住宅営繕課。
 市営住宅の公平性が主要テーマとなった。
 住宅を必要とする低所得者人口と、確保すべき住宅戸数についてそれぞれ把握しているか、との仕分け人の問いに対し、市側の回答は「把握していない。ただし、入居希望者抽選会の倍率は約八倍。需要は高いと思う」。
 また、「収入は低いが財産は多いというような人が市営住宅に入居している可能性はあるか」との問いに対しては、「調査していない」と答えた。
 このほか仕分け人からは、「市営住宅による住宅供給では、建設された戸数に見合う人数しか恩恵を受けられない。抽選に外れたらそれまで。低所得者に対する家賃補助という方式に変更すれば、戸数に関係なく広く浅く支援することができる」との指摘があった。これに対して市側からは「今後検討したい」との考えが示された。
 ▽沼津市社会福祉協議会交付金(四、四五八・二万円)=沼津市社会福祉協議会(社協)の職員人件費を助成する事業。担当は社会福祉課。
 一億円を超える繰越金を持つ社協に対して補助をすることの必要性が論じられた。
 市側は、社協が地域における民間福祉活動の中核として重要であることや、これまでにも補助額を削減してきたことなどを説明したが、仕分け人は「介護事業などで九千万円の黒字が出ている団体に四千万円の補助を出すのはおかしい。繰越金をすべて取り崩してからでもよいのでは」と主張した。
 ▽体育施設管理事務委託事業(三、一五一万円)=市民体育館や香陵運動場などの管理を「NPO法人沼津市体育協会」に委託する事業。市教委スポーツ振興課が担当。
 体育協会への委託方式とともに、市の正規職員も一部の管理業務に携わっていることが問題視された。
 市の説明によると、体協職員のローテーションの関係で、市の正規職員が週に一回、施設の受付事務や巡回などの業務を担当している。
 仕分け人からは、「市の正規職員の人件費は高い。体育協会にローテーションを工夫してもらうべき」との意見が出た。
 また、「体育協会に市役所のOBはいるか」という質問が仕分け人からあり、市側が「数人いる」と回答すると、「身内びいきにならぬよう、委託契約の内容には注意してもらいたい」との指摘があった。
 また、市の体育施設の利用料が長年据え置かれていることが問題となり、利用料の見直しが提案された。これについて市担当者は、「スポーツ振興は市の施策でもある。一人でも多くの市民に使ってもらいたいと思っている」と応じた。
 ▽市民体育館運営費(三、一五七・一万円)=市民体育館を市直営で管理する事業。清掃は外部に委託している。担当はスポーツ振興課。
 同事業では、事業内容そのものよりも市民体育館が今もって耐震化されていないことが重大視された。
 市によると、耐震化工事や建て替えの計画は今のところ未定。しかし、平成二十七年度までに耐震化が義務付けられているので、それまでに解決することを目指したい、としている。
 仕分け人からは「市民体育館運営審議会とは何か」との質問がされ、市側担当者が「施設利用者ら十二人の委員から体育館運営に関する意見を聴いている」と答えると、「一握りの人間ではなく、大勢の人からアンケートなどを通して意見を集めるべきでは」との意見が出た。
 ▽B&G海洋センター運営費(一、四八四・四万円)=ブルーシー・アンド・グリーンランド(B&G)財団が平成四年に建設し、八年に旧戸田村に無償譲渡したスポーツ施設「B&G海洋センター」を運営する事業。
 同施設は体育館と屋内温水プールから構成される。戸田の小中学校にはプールがないので、体育の授業でも使われている。「ぬまづ健康スポーツ祭」の会場にもなっている。担当はスポーツ振興課。
 仕分け人からは、同施設が地元向けなのか観光客向けなのかについて問われた。市側担当者は「地元のための施設ではあるが、地元住民だけでは稼働率向上は困難」と回答。
 温水プールの燃料費が同施設運営費のかなりの割合を占めていることに対し、「温水をやめて通常のプールとして使っては」との提案がなされたが、市側は「温水プールは施設の大きな魅力」とした。
 また、二十八日の仕分けで取り上げられた「少年の船」事業と関連し、「北海道へ行くのではなく、同じく戸田にある『ゆめとびら舟山』と合わせてこの施設も活用すべき」との声が上がった。
 判定後、発言を求めた市民判定人は、「まず戸田の学校にプールを設置すべき。同じ沼津市内でこのような格差は、子ども達がかわいそう」と述べた。
 第二会場では、二日間で二十二事業についての仕分けが行われ、うち三事業が「不要」と判定された。「要改善」は十八事業。「現状維持」は一事業だった。
(沼朝平成22年9月3日号)

2010年3月20日土曜日

街の顔 駅前に思いやりを

 街の顔、駅前に思いやりを
 休日に生後6カ月の息子をベビーカーに乗せ、沼津駅周辺に買い物に出かけた。百貨店などがある駅前の大きな交差点に横断歩道はない。道路を渡るには、ずっと離れた横断歩道まで行くか、ベビーカーを持ち上げて地下通路の階段を上り下りしなければならない。バリアフリーの言葉が生まれるずっと前にできた古い地下通路にエレベーターはない。
 「車いすの人や足腰の弱いお年寄りはどうするのだろう」。ベビーカーを押す立場になって、真剣に考えた。
 優しさがなければ人は離れていく。駅周辺を整備するなら、まず思いやりから考えたい。(東部総局・望月貴広)
(静新平成22年3月20日(土)「清流」)

2010年3月19日金曜日

沼津地価公示



地価公示 沼津市

 商業地は2年連続の下落で、変動率はマイナス1・0%。中心部の物件の動きは少なく、「様子見の状態」(業者)が続いている。郊外は幹線道路沿いで1千平方㍍以上の規模の物件が関心を集めている。
 住宅地の変動率はマイナス1・4%。落ち込みの幅は前年の2倍に広がったが、中心部に比較的近い金岡、大岡南部の商業施設周辺はむしろ引き合いが強くなっている。
 「好条件の物件は造成中でも買い手が付く。半面、狭い道路沿いはほとんど動かない」と不動産業者。周辺部でも新しい造成地は人気が高い。実例では大岡で12万円前後、原で9~11万円台など。
【 公示地価 地価公示法に基づき、国土交通省の土地鑑定委員会が年1回公表する土地の価格。都市計画区域を中心に選んだ標準地について、不動産鑑定士が周辺の取引事例などから1月1日時点の1平方㍍当たりの価格を算定する。一般の土地取引や固定資産税などの目安となり、公共事業の用地買収の価格決定にも活用される。地価の指標は、7月1日時点の地価を毎年9月に公表する都道府県地価(基準地価)や3カ月ごとの地価動向報告などがある。】
(静新平成22年3月19日(金)朝刊)



長泉、県内唯一の上昇:地価公示
立地と施策が充実 子育て世代、関心高く
 18日に公表された国の地価公示で、長泉町が抜群の存在感を示した。2008年秋に始まった金融不況で地価は下落が続き、住宅地の調査地点のうち今回上昇したのは全国約1万8千のうちわずか6地点。このうち2カ所が同町内だった。東京から約100㌔。首都圏への新幹線通勤圏という立地条件に加え、ハード、ソフト両面の施策の充実が定住希望者を引きつけているようだ。
 上昇したのは同町下土狩の2地点。変動率はともにプラス0・8%で、残る町内の4地点は横ばいだった。市町別の平均変動率の上位をみると、清水町、裾野市、三島市、伊東市と県東部が続くが、上昇は長泉町だけだ。
 「道路整備や子育て支援といった生活関連施策が充実しているのが大きい」と宅地分譲を手掛けるハウスメーカーは長泉町の優位性を分析する。1990年代後半に整備が始まった都市計画道路が供用時期を迎え、三島などへのアクセスが格段に向上した。近い将来はJR三島駅と新東名を結ぶ都市計画道も通じる。
 高い財政力を背景に02年に導入した子ども医療費の無料化施策も支持を集める。09年度は対象を中学3年生以下まで拡大した。合計特殊出生率は県内トップで、人口増加は続く。沼津市内の不動産業者は「近隣市町から長泉へ子育て世代の転入希望が目立つ」と解説する。
 同町の池田修総務部長は「がんセンターの存在を含め、あらゆる要因が相乗効果を生んでいる。転入希望が多いことの一因に施策への評価があるのなら、行政としてもろれしい」と話した。
(静新平成22年3月19日(金)朝刊)

2010年2月15日月曜日

キツネ化粧で嫁入り行列


 キツネ化粧で嫁入り行列
 沼津・上土朝日稲荷神社
 100人、半世紀ぶり奇習

 沼津市内の狩野川のほとりに立つ上土朝日稲荷神社(通称・お稲荷さん)にちなんだ奇習「キツネの嫁入り」が14日、半世紀ぶりに沼津市中心部で行われた。新郎新婦役のカップルを先頭に、キツネ化粧をした約100人の一行がにぎやかな行列を繰り広げた。
 新郎新婦役を務めたのは、近く結婚を予定している藤枝市の岡村友樹さん(27)と静岡市葵区の山田朋子さん(28)。岡村さんが待つ同神社に、山田さんが渡し舟で到着すると、集まった人から「おめでとう」と拍手が送られた。2人は手を取り合って神社に向かい、三三九度を交わすなどの神前結婚式を行った。
 その後、人力車に乗り込み神社を出発。かみし一もや法被姿の地域住民らが後に続いた。
 沿道からの声に手を振って応えた岡村さんは「活気があり、温かな沼津の雰囲気を感じることができた」と満足げ。山田さんも「商店街の人の心遣いがうれしかった。お互いの気持ちを確認する機会にもなりました」と笑顔を見せた。
 計画した沼津あげつち商店街振興組合の内田祥一理事長は「笑顔いっぱいの最高の嫁入りになった。工夫を重ねて、沼津に定着するイベントにしたい」と力を込めた。
(静新平成22年2月15日(月)朝刊)

2010年2月14日日曜日

キツネの嫁入り半世紀ぶり復活



 キツネの嫁入り半世紀ぶり復活
 きょう、130人大行列
 (沼津の商店誘客行事)
 バレンタインデーの14日、沼津市中心部に"キツネ"の一行が現れる。行列の先頭には新郎新婦ー。かつて市内の商店主らが誘客のために行っていた「キツネの嫁入り」行列イベントが、半世紀ぶりに復活する。
 計画しているのは「あげつち商店街振興組合」(内田祥一理事長)。市中心部にある同商店街の一角、狩野川沿いの「お稲荷さん」こと、上土朝日稲荷神社にちなむ。
 「ヤシロメガネ」3代目の八代厚さん(84)によると、同商店街では1955年前後、「キツネの嫁入り」行列を中元時期などに行っていた。
 男性店主らがキツネの面を着け(かみしも姿でスクーターに乗り、御殿場や富士、遠くは松崎まで集客に繰り出した。白無垢(むく)姿の花嫁も男性が女装したという。

 「先代から話を聞き、復活させたかった」と内田さん。今回、全国商店街振興組合連合会の補助金事業に選ばれ、念願がかなった。結婚を予定する静岡市内のカップルも見つけ、文字通りの「嫁入り」行列が実現する。
 以前は仮面だったが、今回は参列者全員の顔にキツネの化粧をする。同商店街の店主や「おかみさん会」のほか、地元の子供会、一般参加者ら130人規模の大行列になる見込みという。
 14日当日は、花嫁を乗せた渡し舟が正午ごろ、新郎が待つ狩野川に架かる「あゆみ橋」に着く。新郎新婦が上土朝日稲荷神社で挙式した後、午後1時に行列が始まる。
 市中心部の大手町、仲見世、上本通り、アーケードの各商店街を通り、午後2時半ごろ、あげつち商店街に戻る予定。
 あげつち商店街に並ぶ沼津東急ホテルも美容室を提供するなど、一丸で盛り上げる。内田さんは「ゆくゆくは沼津の夏祭り、よさこいに並ぶ行事にしたい」と期待する。
(静新平成22年2月14日(日)朝刊)

2010年2月11日木曜日

JR貨物社長 富士への統合否定的


 JR貨物社長 富士への統合否定的


 JR沼津駅周辺の鉄道高架事業をめぐり、JR貨物の小林正明社長は10日、都内の本社で行った定例会見で、川勝平太知事が展開している沼津貨物駅の不要論に対し、「(鉄道高架)事業は県事業。知事が変わり、考え方が変わったのかもしれないが、それは厳然として残っている」と反論し、「明治22年の立地以来、120年にわたり地元に貢献してきた。今後も使命を大いに果たさなければならない」と代替駅の必要性を強調した。
 富士地区の貨物駅に移転統合する可能性については「可能であればこの問題がなくても統廃合している」と否定的な見解を示した。同席した惟村正弘執行役員営業部長は「吉原は(製紙工場向けの)特殊な駅。富士は県が用地を拡張してくれれば別だが、沼津駅で取り扱い可能な長い貨物が扱えない」と指摘した。
 また、小林社長は川勝知事に面会を申し込んだことを明らかにした上、知事に対し、こうしたことを「真摯(しんし)に説明し、理解してもらわなければならない」と述べた。ただ、地元への説明については「地域のお役に立っていると確信している。不要論に説明義務が生じるという(知事の)指摘は納得しがたい」とした。
 惟村部長は沼津貨物駅で扱っている貨物について、「確かに取扱量は少ない」と認めた上、「トラックや船で運ぶことが難しい化学薬品や長尺物のほか、青果物など生活に密着した貨物も安価に運んでいる。沼津貨物駅の機能をセールスポイントに企業誘致も進んでいる」と説明した。
(静新平成22年2月11日(木)朝刊)

鉄道高架事業は、これからどうなるのか(下)長谷川徳之輔

 沼津駅周辺総合整備事業、鉄道高架事業は、これからどうなるのか(下)長谷川徳之輔

 これからどんな問題が出るか、どうして解決するか
 さて、このような事情にある沼津駅周辺総合整備事業はどう進むかである。
 第一に、六つの事業のうち、推進派の希望通り、原地区の貨物駅は中止されるだけで、残りの事業は、そのまま進むのであろうか。
 第二に、鉄道高架事業は中止されて、南北横断道路、屋上駅、屋上広場などの新規の事業に都市計画が円滑に変更されるだろうか。
 第三に、すでに沼津市が買収している鉄道高架事業予定地は、どう処理されるのか。
 第四に約三百億円の鉄道高架事業のための基金をどう経理処理するのか。
 第五に、貨物駅として都市計画事業の認可を受けている土地には、建築物の建築規制、土地利用の規制、土地の買い取り請求などの制限が付いており、いつまでも制限を続けるのか、また土地の買い取り請求に、どう対応するかである。
 第六に、ここまで事業を進めてしまった行政、議会の責任をどう間うのか、などなど。いろいろな問題を解決しなければならない。
 一番大切なことは、沼津駅周辺総合整備事業を考えた時点と今の時点では大きく経済社会環境が変わってしまったこと、これまでの考え方や仕組みが通用しなくなっていることを、市民も行政もしっかり認識しておくことであり、過去の失敗、不業績を今になってあげっらっても何にもならないことを認識すべきである。過去は過去として処理し、これからどうすべきなのかを考えなければならない。
 明確な決着が必要
 第一の問題は、それでは、都市計画は変更されず、なし崩し的に先延ばしされることである。
 事業は止まっても、計画をそのままにして、いつか復活するとして処理を先延ばしすることであり、行政の責任の先延ばしに過ぎず、従来は、このような対応がされることが通例であった。
 しかし、貨物駅の計画を止めては、残りの事業が進まないことは前述のとおりであり、先延ばしすることは問題の解決にはならない。表向き事業がストップして、鉄道高架事業は棚ざらしになるだけである。貨物駅の移転が消えるからには、全体の計画の見直しをしなければならない。
 第二に新しい計画を決めること、南北自由通路や屋上駅などに円滑に変更することができるかである。
 計画案、財源、費用負担などJRとの交渉、国、県、沼津市との調整を考えると、すぐに転換することは難しく、相当長期の時間を余儀なくされよう。まずは、小田原駅、清水駅などの事例を徹底的に調査して、情報資料を集めて、その功罪を市民に公開する。計画作成には、市民、商店街、専門家の参加を求めて、市民運動を高めることだろう。世論の力で市民意識を高めることしかなかろう。
 第三は、買収した用地を無駄にしないことである。
 富士見町地区、原地区には沼津市が買収した用地が散在している。土地の買収には利権が付きまとい、沼津市は、その実態を公表したがらない。しかし、どう利用するか考え、円滑に資産処理を進めるには、実態を隠すことなく、どのくらいの量があるのか、現在価値はどのくらいかなど、しっかりした情報資料を整備して、新しい利用方法を考えなくてはならない。
 原地区の貨物用地はまとまった土地であり、教育施設、医療施設や市民公園などに利用できよう。富士見町の土地は、鉄道高架事業用地を生み出すのではなく、良好な居住環境を整備するための区画整理事業を進めていくことであり、有効利用の道を探ることである。災い転じて福となし得るかどうかである。
 都市計画の事業制限、土地の買い取り請求 第四は、速やかに都市計画事業の認可を取り消すことである。
 都市計画法、土地収用法は、事業を推進するために、土地所有権の強制収用、土地利用の制限などを義務付け、逆に制限を受ける土地所有者の立場から、土地を時価で施行者が買い取ることを請求する権利が認められている。
 都市計画事業の認可の効果が続く限り、土地所有者の権利は不安定であり、また、事業を中止するにもかかわらず、施行者、沼津市は買収予算を計上し、要らない土地を買い続けなければならない。貨物駅の移転を中止するのであれば、早急に貨物駅移転の都市計画の事業認可を変更しなければならない。先延ばしして、放置しておく訳にはいかないのだ。
 使ってしまった基金の問題
 第五は、市民が営々として積み立てたはずの三百億円の鉄道高架事業を進める資金、基金がどうなっているか、しっかり経理できるかである。
 これまで鉄道高架事業の沼津市の負担は、三百億円の基金が積み立てられているから大丈夫だと説明されてきた。確かに現金であればそういう話も成り立つが、今果たして、この資金がどのくらいあるのか。
 積み立てた資金は現金であるわけでなく、土地の買収、他の事業への流用などで大半は使われてしまっている。基金の財務状況は必ずしも明確に示されている訳ではない。
 そもそも、鉄道高架事業のために積み立てたという基金が、もし鉄道高架事業をやらないとした時に、どう経理処理したらいいのか対応策は明確ではあるまい。貸付金だといわれる流用先の資金が返済される見込みもなかろう。使ってしまったものを取り戻すことはできないし、地価の変動で下がってしまった土地価格を取り戻すこともできはしない。
 真のリーダーの責任、出番だ
 第六は、究極の問題であるが、ここまできてしまったことの政治、行政の責任問題である。
 これまで二十年近く、無意味に、だらだらと進められてきたのは、中止することによって、それまでの事業に誰が責任を取るかが、はっきりすることを避けたい心理も、当事者には正直あったものと思われる。
 国、県、沼津市、それにJRが、それぞれの思惑でかかわってきたが、時代の転換により、これまで適切だと思ってきたことが変質してしまい、計画への疑問を持ちつつも、正直、転換を言いかねて、みんな、だんまりを決め込むか、責任を他に転嫁してきたのではなかろうか。
 折から中央政権も自民党から民主党に政権交代し、新政権はコンクリートから人へのスローガンで無駄な公共事業はやれない、やらないという方向を示している。新政権の中枢に位置する選良がこの沼津市から選出されている。
 今こそ、そのスローガンを実行するために、国土交通省、静岡県、沼津市、さらにJR当局を調整し、円滑に事態が解決されるように、舵取りする責任がある。川勝平太静岡県知事、栗原裕康沼津市長、いずれもこれまでの政策からは自由な立場にあり、県民、市民全体のために冷静、客観的に判断することができる立場にあると思う。まさに、これらのリーダーたちの出番だ。
 究極の責任は沼津市民にある
 究極の責任問題は、ここまで来たら、本来は鉄道高架事業の施行主体でもない沼津市、沼津市民が負わなければならなくなったことである。
 これまでの努力が無駄になったという思いもあるだろうが、さらなる負担を避けるために、方向転換は仕方がないと思うしかないと思わざるを得ない。
 この二十年の政治や行政の責任を問うたところで、市長や市議会は何回も替わっており、議会も市民も当時は鉄道高架事業を認めていたのだから、責任は市民全体にあると思うしかない。そう思うことが事態の解決を進めることになるのではなかろうか。今、問われるのは、沼津市民の冷静な判断、英知である。(おわり)(元大学教授、東京都)
(沼朝平成22年2月11日(木)号)

2010年2月10日水曜日

鉄道高架事業は、これからどうなるのか長谷川徳之輔

 沼津駅周辺総合整備事業、鉄道高架事業は、これからどうなるのか(上)
 長谷川徳之輔

 川勝知事の発言
 川勝平太静岡県知事が、長年の問題となっている沼津駅周辺総合整備事業、その中で土地収用をめぐって紛糾してきた原地区への貨物駅移転について、施行主体としての静岡県の立場から、貨物駅の移転、増設の必要性を否定する発言を繰り返している。
 推進を目指す栗原裕康沼津市長とも話し合ったが、貨物駅移転不要の知事の鉄道高架化事業への見解は、新たな問題を生んでいるようだ。
 では、どんな問題が起こるのか。先行きどうなるのか。いったん決めた公共事業をストップすることなど経験のなかったことであり、どう事態が進むのか、当事者にも、市民にも、戸惑いと混乱が起きている。
 究極は沼津市民の判断
 川勝知事の見解は、JR貨物の輸送量の全貨物輸送量の中で占めるウエートは極めて低く、さらに沼津駅での貨物取扱量も微々たるもので、今後も増加することはありえず、そもそも貨物駅の移転は無意味であり、現在の貨物駅の存在意義さえ問われるという見方である。学者らしく数字を挙げて説明しており、常識的には誰もが理解できる話である。
 知事は静岡県が施行主体で責任があるが、最終的には、事業を進めるかどうかを決めるのは沼津市民だと沼津市民に下駄を預けている。知事にして他人事としか見ていないようである。
 この知事の発言について、長い間、鉄道高架事業の反対運動を続けてきた市民にとっては当然であり、鉄道高架化事業は中止されるものと評価しており、推進派は落胆しながらも、鉄道高架事業自体が否定されたわけではなく、事業は進められると受け取っている。果たしてどうなるのか、不透明であり、そのために市民に戸惑いが広がっている。
 複雑な沼津駅周辺総合整備事業
 もう一度、この事業の仕組みをおさらいしてみよう。
 沼津駅周辺総合整備事業は六つの事業が一体となって機能するものであり、貨物駅の移転がなければ、そもそも鉄道高架事業は成立しないはずである。
 沼津市の旧市街地の衰退は市街地が東海道線と御殿場線で分断されているからであり沼津駅周辺の二つの鉄道線路を高架化して南北の交通を円滑化させれば南北問題は解決する、という考えから計画がスタートしている。
 鉄道の分断が沼津市の衰退の原因なのか疑問はあるが、事業は、まず、鉄道線路の高架化のために、現在の平面の沼津駅の西側にある貨物駅と東側にある車両基地を高架化線路の外に移転させる。
 その上で、跡地の車両基地用地と貨物駅用地その周辺を区画整理して鉄道高架事業の線路用地を生み出すとともに、市街地を整備し、高架下の土地の有効利用を進める。
 これに関連する、いくつかの道路整備などが加わる。さらに駅南の土地の有効利用のために駅南の再開発事業を行う。話題のイーラdeはその一環である。
 割の合わない沼津市、隠れたJR貨物
 六つの事業の事業システムは、別々の都市計画事業であり、施行主体も費用負担も異なる。鉄道高架事業と貨物駅移転事業は、静岡県が施行主体、現貨物駅の土地区画整理は沼津市が施行主体、駅北と車両基地の土地区画整理は民間都市開発推進機構が施行主体、駅南の都市再開発事業は沼津市が施行主体となっている。
 都市計画も制度的にはそれぞれ個別に決められており、沼津駅周辺総合整備事業は、これらを一体としての名称であり、鉄道高架事業がその中心に位置付けられている。鉄道高架事業がなければ、残りの五つの事業は形式的には別事業でも、実質的には存在しない事業なのだ。不思議なことに肝心のJR貨物は事業主体としての姿を現さない。
 貨物駅中止は全体の中止
 確かに貨物駅移転をやめても、都市計画としての鉄道高架事業は形式的には存続し得る。しかし、それには現在の貨物駅と車両基地の機能を維持するために、平面の線路をそのまま、存続しなければならないし、それでは鉄道を高架化しても意味のないことになってしまう。
 貨物駅を移転しないで現在の貨物駅を撤去する選択もあり得るが、JR貨物が受け入れないであろう。
 鉄道高架事業が消えれば、御殿場線の高架事業の用地を生み出すために行われる車両基地用地、富士見町地区の区画整理は必要なくなってしまう。もちろん、鉄道高架事業に関連する道路整備事業も意味がなくなる。現在三つ目ガードの北側で行われている道路拡幅、かさ上げの工事は全く役に立たない事業になってしまう。
 JR救済の国策事業
 そもそも、沼津駅周辺総合整備事業は旧国鉄、JRの救済なくしてはありえなかった事業である。
 当時、旧国鉄は巨額の債務超過、経営不振が極まり、国を挙げての救済を迫られていた。旧国鉄の三十七兆円に上る膨大な債務を棚上げして、その債務を処理する国鉄清算事業団を作り、二十五・五兆円の債務を承継させた。
 本体は、JR東海など六つの株式会社に分割して新生のJR株式会社にして再出発させた。JR貨物もその一環である。
 国鉄清算事業団は旧国鉄の資産を売却して債務に充て、不足する分を国が税金で面倒をみることになり、全国各地で旧国鉄の資産、土地が売却された。新橋、汐留駅貨物用地はその目玉だったが、虎の子の用地の処分も大した収入にはならず、債務は国の一般会計に引き継がれて大量の税金が投入されることになり、今でも年間一兆円近い税金が投入されている。
 JRの利益優先の事業、負担するだけの沼津市民
 鉄道高架事業は、もちろん鉄道と道路の平面交差が自動車交通の円滑な機能を阻害しており、とりわけ大都市においては都市計画の視点からも必要性は高かったが、その底流には当時の旧国鉄救済の要請から、鉄道高架事業の資金については極力、道路側、自治体が持つことが求められていた。
 運輸省と建設省の協定は、それを具体化したものであり、旧国鉄救済が重要な国策であったのである。
 高架化しても線路の利用効率が上がるわけでもなく、鉄道高架事業にJR側のメリットが少ない"地方都市では、その費用の九五%を、自治体、道路側が持つことで事業が進められてきた。
 沼津駅鉄道高架事業もその通りで、JRとしても当時、新規の投資先がなくなり、有能な技術者、土木建築の専門家が働く場所をなくしていた。彼らに働き場所を用意することもJR当局の経営上必要であったのであろう。鉄道高架事業は絶好の働き場所になる。
 その費用の大部分を道路、自治体が負担するのであり、JRは自らの負担なしで職員の雇用を続けることができる。さらに、貨物駅や車両基地のような資産の有効活用が自治体の負担で進められる。原地区の貨物駅が貨物取扱量を現状の一四万㌧から四〇万㌧へ拡大して資産の効率化が自治体の負担で進むなど経営上は絶好のチャンスだったと言わざるをえない。
 このような流れにある鉄道高架事業について、その費用は道路、自治体が負担する計画が、極力JRのメリットを拡大する方向で進められてきた。今になっては計画に乗ったことに内心忸怩(じくじ)たるものがあるJR当局は前面に出て、その必要性を説明したがらない。
 JRは、一私企業としての損得しか考えていないと言わざるを得ない。都市計画を決定し、運用方法を定めた国土交通省(旧建設省)、静岡県当局も明確な説明を避けざるを得ない。(元大学教授、東京都)
(沼朝平成22年2月10日(水)号)