沼津の鉄道高架事業 用地交渉は難航必至
具体的な将来像示して
県と沼津市が、約5年間止まっていたJR沼津駅付近鉄道高架事業の推進に向けて動き出した。高架事業に伴う貨物駅移転の用地となっている同市原地区の土地をめぐって、今後は本格的に反対地権者との交渉に入るが、難航は必至とみられる。県東部の発展のために必要な事業と推進を決めた以上は、速やかに具体的なまちの将来像を示すべきだ。
鉄道高架事業は2010年1月、川勝平太知事が推進派、反対派が集まった意見交換会で、見直しに言及したことで事実上、中断した。再び動いたのは14年7月。知事が沼津駅前に整備された総合コンベンション施設の全面開業記念式典後に、事業の推進を明言した。2カ月後の県議会9月定例会では、原地区に平時は待避機能を主とする最新式貨物ターミナルを整備する考えを述べた。今年1月には難汲喬司副知事と栗原裕康市長が、市民向け説明会で事業推進の決意をあらためて示した。
今後の焦点は、反対地権者との交渉の行方だ。用地取得率は現在74・4%。残り47人の地権者から計2・4㌶の土地を買収する必要がある。市は15年度当初予算案に未買収地の取得費として、前年度比約7千万円増の約1億5千万円を計上した。2月上旬からは地権者の個別訪問を開始し、用地交渉に入るタイミングをうかがっている。
ただ、構想から30年近く経過し、市を取り巻く社会情勢は変化した。市の人口減少は深刻で、転出者が転入者を上回る転出超過は13年が全国市町村でワースト6位、14年もワースト7位となっている。市民からは今後の財政状況を懸念する声も上がる。市には事業のメリットや長期の財政計画を丁寧に説明する姿勢が求められる。
栗原市長は現在の貨物駅と車両基地が移転することで「駅周辺に自由に使える土地が生まれる」と力説するが、具体的な活用案は示されていない。明確なまちの未来図が見えないままでは反対地権者のみならず、多くの市民の理解も得にくいだろう。
反対地権者は「土地を売らない」という姿勢を崩していない。交渉が難航するのは避けられない。たとえ着工に至っても完成までに長期間を要する。
鉄道高架だけで約800億円の費用がかかる巨大事業で、その大半は税金が投入される。県東部の将来に影響する問題であるにもかかわらず、市内外で関心が高まっているとは言えないのは、完成の見通しが全く立っていないからではないか。県や市は、まず用地買収の期限や着工時期などを明示した工程表をつくり、公表する必要がある。
(東部総局・田村和資)
(静新平成27年3月13日「解説・主張SHIZUOKA」)