郊外への大型店出店を問う
日本総研 藻谷浩介氏を講師に
市街地再生とは両立せず
データ挙げて厳しい評価
中心市街地活性化協議会(会長"市川厚・沼津商工会議所会頭)は、まちづくり講演会「郊外型大規模商業施設による中心市街地への影響」を十九日、商工会議所三階ホールで開き、日本総合研究所調査部の藻谷浩介氏の話を聴いた。市立病院東側に進出の話が出ている大規模商業施設を念頭に置いた講演会で、市議らも聴講した。
はじめに市川会頭は「私達は三年半前から(同協議会として)中心市街地の活性化に取り組んでいる。藻谷先生の話を聴いて、間違いのない判断をしたい」とあいさつした。
講演に移ると藻谷氏は、今回の出店話について「五年前なら、さほど驚かなかったと思うが、平成二十五年に、こういう話が出てきたというのは驚きだ。『あえて、ここ沼津にショッピングセンターを』という話を聞いて『本当ですか』と、ショッピングセンターのプロなら全員がそう言うだろう。三島ならまだ分かるが。今回の話を聞いて最初に思ったのが、『サントムーンの方が近いだろう』ということ。清水町は意地で(沼津と)合併したくないだけで完全に沼津(と一体的)だ。(今回の話が)沼津のまちにとっていいのか悪いのか、ニュートラルな観点で考えた。アメリカへの行きと帰りの飛行機の中で考え続けた。これは全国で購演している私としては画期的なことで、一般市民にとってプラスになるか、ならないかの観点で考えた」として話を進めた。
「市民の働く場所が増えるか、ということだが、同じパイを争うだけで働く人が増えるか減るかは前から分かっている。日本に千以上のショッピングセンターが出来た経緯で、その時(々)に結果が出ている。サントムーンでも結果が出ている。沼津市民である以上、沼津で買い物をしたいという人もいるだろう。しかし、清水町と沼津が合併した途端、サントムーン万歳となるのか。そんなことは、あまり関係ない」
「(新しい店が出来)品揃えが増えるという意見もあると思うが、正直あまり関係ない。(進出が言われる)今度の大型店が初めて置くような品物だったら、サントムーンやイオンが置いたはずだ。推進する側の人は必ず言う。『雇用が増える』『市内で買える商品の種類が増える』『富士市や清水町まで行かなくても済む』『駐車場に止めてゆっくり買い物できる』と。この四つは必ず言う。市の商業にとってプラスになるのかならないのか。市内どこでもいいから、商売やっている人から見てプラスなのかマイナスなのか。市全体の店の売り上げにとってプラスなのかマイナスなのか」
「市全体の売り上げは過当競争になって減る。これはすごく大事なポイントだ。日本では消費税が直接、市に入らないから、あまり(商業床の増床が、どういう結果を生むか)真剣に考えてはいないが、これも実は数字がある。全国での数字があり、増えるか増えないかは分かっている。もし市議会議員が私の言うことと反対のことを言うのであれば、それは全く勉強していないということだ」
藻谷氏は、一九九〇年度末(平成二年度末。以下「バブル期」と表記)から二〇〇六年度末までの沼津市内の小売業の売り場面積、小売り全体の売上額、小売業の雇用者数、床効率(坪売上)の推移をグラフで示した。
平成十八年度以降は、小泉純一郎内閣の時に調査が廃止されたことでデータがないというが、〇六年度末というのは第一次安倍晋三内閣の時で、この時の日経平均株価は一万七千円から一万八千円。
藻谷氏は、最近の株価上昇報道を示唆。十八年度末に比べて今の方が景気が良いようなイメージを持ちやすいが、「数字を見ないでムードで判断するのはよすべき」だときっぱり。「沼津市内の店の売り場面積はバブル期から二五%程増えたが、売り上げは二割減少した。床効率(坪当たりの売上額)は三六%も減少していて、その後、店がバタバタ潰れたのも当然だ。売り場を増やした以上、人を置かない訳にはいかない。雇用は一時増えたが、売り上げが下がるので、その後は、どんどん減った」との分析結果を示した。
さらに、「商売は社会福祉事業ではなく、人を減らして成り立っている。売り場面積をいくら増やしても、従業員は、そんなにいない。これが分かっていない人は大型店の進出に賛成しないでほしい。そういうことが分からない人が、他の市町では議員に多い」とした。
また、同じ期間の清水町のデータも示し、「バブルの頃は、もともと店があまりなかった。バブル期に比べて(平成十八年度末は)売り場面積は二倍に増えた。すると売り上げは二倍に増えたのだろうか。バブル期に四九四億円だった売り上げは五五〇億円。売り場は二倍に増えたのに売り上げは一・一倍。(沼津より)小さい清水町で売り場を二倍に増やしたのに売り上げがほとんど増えていない。床効率は四四%も減少した。大きなホテルを造っても、ホテルが出来たから泊まるという人はあまりいない。それと同じように営業効率が悪くなって(店は)どんどん潰れる。雇用は一時、順調に増えたが、売り上げが増えなくなったので働く人も増やせない。(清水町は)サントムーンで景気がいいというのは見かけだけで、数字はついてきていない。イメージだけで議論するのは駄目だ。なぜ現実を見ようとしないのか」。
続けて、沼津市と清水町を合わせた同期間の数字にも触れた。
それによると、バブル期に比べて平成十八年度末の売り場面積は三五%増えたが、売り上げは一五%、床効率は三七%、いずれも減少。これについて藻谷氏は「取り合うのではなく潰し合っている。(商業床の増床を)やればやるほど、お宅ら(沼津市と清水町)の税収が下がる。これは数字を見ないから」だと厳しく指摘。
「(商業床の)面積を増やせば増やすほど過当競争になって売り上げが落ちる。売り上げが落ちるので雇用も増やせない。この商圏の中で取り合っているのは全く意味がない。株価が(今より)ずっと高かった時もこうだ。当時より今は人口が減っていて、お年寄りが増えている。静岡市(現静岡市域)では、バブル期に比べて(十八年度末は)売り場が二六%も増えたが、売り上げは一〇%減少した。非常に厳しい状況だ。商業床の面積と売り上げの差がどんどん開いた。この時(平成十八年度頃)の静岡でも、店が増える以上、そこで働く人が増えるのではないかという意見があった。数字を見ないから、こういう意見が出る。この数字は経済産業省のホームページに出ている。経産省の統計ぐらいは見てほしい」
この後、横浜市、東京二十三区の例でも、売り場面積が増えることによって売り上げは実質的に減っていることなどを示し、「横浜でできなかったことを沼津ができるというなら、それは傲慢だ。イメージだけで語っている。(商業床の増床によって)途中までは増えている雇用も過当競争になったら減らすしかない。東京と沼津は売り場の増え方、売り上げの減少、床効率の減少、雇用の減り方、皆、ほとんど同じ。大型店の出店は東京の失敗を繰り返すことになる。なぜそう言えるか。過去、全国どこもそうなっている。日本中同じ数字だ。どこでもできていないことを(沼津なら)できると断言できるのか」
「売り上げが増えなければ商業が栄えたということにはならない。日本中で店の売り上げが減るのは誰のせいでもない。団塊世代が退職して、消費が減っているので物が売れない。だから日本中で大型店への投資は終わっている。ここ(市立病院東側への出店)は誰かを潰して(その分の需要を)取れると思ったのだろう。彼ら(大型店の人間)も、こういうことは知っている。それを、諸手を挙げて歓迎しているのが沼津市民と市長だ」
「霞ヶ関では、沼津は沼みたいに恐ろしいところだと思っているのではないか。(郊外への大型店の出店は)鉄道高架計画とも矛盾している。郊外と市街地の両方やるというのでは、中心市街地活性化計画というのは郊外型をやらないということを前提にしているから、国から見ると、『なんだ、こいつらは』ということになるのではないか」
「皆さんは(郊外型大型店の出店と中心市街地活性化が)両立すると思っているようだが、(店は)一つ増えれば一つ潰れる。プラスになるのは駐車場付きの店が一軒増えるということだけ。(大型店進出を歓迎するのは)『いいことあるぞ』とロシアンルーレット(の引き金)を引くのと同じ」などと断じ、これまで何回も沼津で講演し、市行政、産業界の取り組みに翻意を促してきたのと同様、警鐘を鳴らした。
《沼朝平成25年8月22日(木)号》
大規模店の影響探る
沼津中心市街地活性化協 識者招き講演会
沼津市中心市街地活性化協議会(会長・市川厚沼津商工会議所会頭)はこのほど、「郊外型大規模商業施設による中心市街地への影響」をテーマにしたまちづくり講演会を沼津市で開いた。
市北西部に大規模商業施設の建設計画が持ち上がっている状況を踏まえ、建設された場合の影響についての意見を有識者から聞くために企画した。商業者ら約70人が出席。講師を務めた日本総研主席研究員の藻谷浩介さんは、大規模商業施設建設後の売り上げや雇用状況を県東部地区や横浜市などの事例を交えて考察した。
藻谷さんは「売り場面積が増える一方、過当競争に伴い売り上げや雇用が減少する現象が起きている」と懸念を示した上で、「沼津港のブランドイメージは高い。観光客がゆっくりと時間を過ごせるよう駅から港までの動線をどうするかがポイント」と提案した。
《静新平成25年8月22日(木)朝刊》
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