2013年8月29日木曜日

「高架事業の本音を語ろう」 渡辺利明

「高架事業の本音を語ろう」 渡辺利明
 沼津高架PI勉強会もいよいよ終盤を迎えた。先般来、本紙に公共事業に関する専門家である長谷川徳之輔氏(元旧建設省高官、元大学教授)や佐野俊夫氏、山田孜氏の様々な角度からの指摘を拝見し、私は別の視点から、この問題を考えてみたい。
 現在、この問題は、県が主催するPI委員会でその方向性が議論されていて、私も特別な用事のない限り出席している。
 最大の問題点は一番の当事者である沼津市の出席がなく、PI委員、市民との対話を拒否していることだ。このことは、この事業に対する市当局の自信のなさの表れだろう。せっかく川勝平太知事の、円満な解決策を見出したいとの思いからスタートしたものが、中途半端なものに終わっている現実を市民の皆さんにも知っていただきたい。
 さらに、一部重要な論議が欠落しているように思われるので、以下、何点か指摘しておきたい。
 第一は、市当局にしか分からない財政見通しなどが議論されていない点だ。県の要請を受けて提出された市の財政見通しでは、人口、事業所が減り続けている中で、沼津市の税収は増加するという、全く考えられないデータが示されている。市当局は大幅増税を考えているのか。
 高架事業にかかわる市民の大きな疑問の一つに、市の財政は大丈夫かという点がある。老朽化した市民体育館の建て替え、清掃プラントの更新、緊急を要する津波対策、公共施設の維持管理など今後、途方もない予算が必要なことは誰の目にも明らかだ。
 限られた予算は、事業の優先度を見て厳しく見直さなくてはならない。たとえ計画決定されたものであっても、この作業は欠かせない。民間では、たとえ大企業であっても随時行われていることだ。このようなチェック機能が効かなければ、米国のデトロイト市、夕張市の轍を踏むことになる。
 第二は、投資効果の分析が、ほとんどなされていない点である。費用対便益比の数値がしっかり説明されていない。これだけ大きな事業だから、この点は、もっと様々な視点から議論すべきと考える。
 次に高架事業の実現可能性から考えてみたい。県の事務局が示している総合整備型A1・2案は、計画決定された当初案をベースにしたもので、無事着工できた場合、工期十五年としている。しかし、この案には無理がある。
 そもそもPIが始まったのは、高架化の前提となる貨物駅移転用地の取得に沼津市が失敗し、事業推進が行き詰まったことが出発点だ。栗原裕康市長は県に強制収用を申請し、川勝知事は、強制収用は行わないとして有識者会議、PIとなった。栗原市長は簡単に強制収用できるものと考えたようだが、川勝知事は慎重に四囲を見回し、他の方策を模索して現在に至っている。
 そもそも本件について、強制収用を考えるには大きな無理がある。土地収用主体者の問題もあるが、計画用地の三〇%が買収できず、地権者も多数に上る。誰が見ても無理な話である。あの国家プロジェクトとして進められた成田空港の用地買収にしても、最終的には、ほんの数人の土地所有者を相手とした強制収用が、流血の惨事を招く大抗争に発展した。
 本件のような人口二十万人の地方都市の計画に、しかも三〇%もの未買収用地に裁判所の許可が下りるはずがない。仮に裁判所の決定が下りたとしても、上訴が繰り返されるだろうから、結審に何年掛かるか検討がつかない。
 こう考えてくると、県の事務局が示した総合整備型A1・2案は全く着工見通しの立たない机上案であり、PI勉強会での検討には値しないものとなる。
 最後に、市当局のまちづくりの基本的スタンスの無さを指摘したい。高架事業は沼津駅周辺の交通問題を便利なものとして、この地域の活性化につなげようとしたものだろう。しかし、約二十年にわたって基本的な部分については全く進展することなく、この間、この周辺の斜陽化は急速に進んだ。西武百貨店も撤退し、今や見るべきものはない街になってしまった。
 隣の三島市、長泉町とは大きな格差がついてしまった。そして今回は、東椎路に大型商業施設進出の話が持ち上がり、市長をはじめ乗り気だと伝えられる。沼津駅周辺の活性化がうまく進展しないので、ここは切り捨て、東椎路計画に乗ろうということだろうか。
 仮にこの施設が出来れば、若干の雇用を生み、一定の売り上げを伸ばすことになろう。しかし、それは、ここに新しい需要が生まれるということではない。周辺の需要を食うだけの話だ。そして一番ダメージを受けるのは、沼津駅周辺商店街を中心とした近隣の商業施設だろう。
 そうなると、間違いなく雇用の場が失われる。この点は日本総研の藻谷浩介氏が指摘しているところだ。このようなことは、自身、新仲見世でマグロ丼店を経営した実績のある栗原市長は先刻理解していることと思う。また市長は、高架事業が現在のような状況では、全く実現性のない計画であることをよく理解しているのではなかろうか。
 最初の市長選公約で高架推進を唱え、関係する事業者らの支持を得て当選したことが大きな足かせになっているのではないか。現在の沼津の置かれた立場を冷静に考え、市民目線に立った市政運営に転換すべきではないかと考える。そして、商店街関係者は、今こそ結束してことにあたらなければ、自分達の明日がないことを自覚すべきだ。
 最後に、私達市民も高架事業のあり方を主題に、沼津のまちづくりの方向性について市民間での幅広い意見交換が欠かせないと思うのだが、いかがだろうか。(下石田)
《沼朝平成25年8月29日(木)号寄稿記事》

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